精神障害になってから、僕のお金に対する考え方はかなり変わりました。
病気になる前は、「働けば給料がもらえる」という、ごく普通の感覚で生活していました。しかし、精神障害を経験すると、そう簡単にはいきません。
体調が悪くなれば働く時間を減らさなければならないこともあります。以前と同じ仕事ができなくなることもあります。転職や休職、退職を考えなければならない場合もあります。
一方で、精神障害者には利用できる公的な制度もあります。代表的なのが障害年金や自立支援医療、障害者雇用です。僕自身も精神障害者になってから、こうした制度を利用するようになりました。
今回は「精神障害とお金」というテーマで、精神障害になってからのお金のリアルと、知っておきたい制度について書いてみたいと思います。
精神障害になると「収入」と「支出」の両方が変わる
精神障害になったとき、お金の問題は単純に「収入が減る」というだけではありません。収入と支出の両方に影響が出てきます。まず大きいのは、仕事です。
精神障害によって以前と同じように働くことが難しくなると、勤務時間を短くしたり、仕事を変えたりすることがあります。僕自身も、病気になる前と現在では、仕事の収入が大きく違います。
以前は一般雇用で働いていましたが、精神障害になってからは障害者雇用で働いています。障害者雇用には合理的配慮を受けながら働けるというメリットがあります。一方で、給料や仕事内容、キャリアについて考えると、「以前と同じようにはいかない」と感じることもあります。
だからこそ、精神障害になった後のお金について考えるときは、「どうやって収入を最大化するか」だけではなく、「どうすれば無理なく生活を維持できるか」という視点も重要だと思っています。
そして、もう一つ重要なのが支出です。
精神科への通院や薬代など、病気になったことで継続的に医療費が発生することがあります。そこで知っておきたいのが、自立支援医療です。
自立支援医療で精神科の通院費を抑える
精神障害とお金を考えるうえで、まず知っておきたい制度の一つが「自立支援医療」です。精神疾患で継続的に通院している人の場合、精神通院医療によって医療費の自己負担が軽減されます。
基本的な仕組みは、医療費の自己負担を原則1割とし、さらに所得などに応じて月額の自己負担上限額が設定されるというものです。精神科や心療内科に定期的に通院している人にとっては、かなり重要な制度です。
僕自身も自立支援医療を利用しています。
精神障害の場合、症状が安定していても定期的な通院や服薬が必要になることがあります。1回あたりの医療費だけを見ると、それほど大きな金額に感じないかもしれません。
しかし、毎月、毎年続いていくと話は変わります。だからこそ、利用できる制度はきちんと利用することが大切だと思います。
障害年金は「働いていても関係ない」とは限らない
精神障害とお金を語るうえで、もう一つ重要なのが障害年金です。
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代でも請求できる年金制度です。精神障害も対象になっています。
障害基礎年金の場合、2026年度は1級が年額1,059,125円、2級が847,300円です。厚生年金に加入していた人の場合は、障害厚生年金の対象になることもあります。
ここで知っておきたいのは、「働いているから障害年金はもらえない」と単純に考えないことです。障害年金は、単純に働いているかどうかだけで決まる制度ではありません。僕自身も働き始めた後、障害年金3級で更新することができました。
もちろん、障害年金は誰でも受給できるわけではなく、初診日や保険料納付要件、障害の状態など、一定の要件があります。また、精神障害の場合は、病名だけでなく、日常生活や仕事にどのような制限があるのかが重要になります。
「働いているから自分には関係ない」と最初から諦めるのではなく、自分が対象になる可能性があるのかを年金事務所や専門家などに確認してみることが大切だと思います。
障害者雇用は「お金をもらう制度」ではないけれど重要
精神障害者のお金を考えるとき、障害者雇用も外せません。障害者雇用は、障害のある人が働くための仕組みです。僕自身も現在、障害者雇用で働いています。
障害者雇用の大きな特徴の一つは、障害の特性に応じた合理的配慮を受けながら働けることです。雇用分野では、障害を理由とする差別の禁止や合理的配慮の提供が法律上求められています。
僕の場合も、体調面について職場に相談したり、仕事内容を調整してもらったりすることがありました。もちろん、障害者雇用だから仕事が楽になるわけではありません。給料が高いとも限りませんし、仕事そのものの大変さもあります。
それでも、精神障害によって以前と同じ働き方が難しくなった人にとって、「働き続けるための選択肢」があることには意味があります。
僕はお金を考えるとき、単純に給料の額だけではなく、「その仕事を何年続けられるのか」という視点も大切だと思っています。
意外と忘れられやすい「障害者控除」
精神障害者がお金について考えるとき、意外と見落としやすいのが税金です。精神障害者保健福祉手帳を持っている人は、所得税の障害者控除の対象になる場合があります。
2026年現在、一般の障害者控除は所得税で27万円、特別障害者の場合は40万円です。精神障害者保健福祉手帳については、1級が特別障害者に該当し、2級・3級は障害者控除の対象となります。
ここで注意したいのは、「27万円がそのまま現金でもらえる」という制度ではないことです。所得から一定額を控除することで、所得税などの負担を軽くする制度です。つまり、障害者になったら「もらえるお金」だけではなく、「払わなくてよくなるお金」にも目を向ける必要があります。
マル優という制度もある
もう一つ、知っておいて損がないのが「障害者等の少額貯蓄非課税制度」、いわゆるマル優です。
一定の条件を満たす障害者は、預貯金などの利子について、元本350万円まで非課税とする制度を利用できます。国税庁も障害者本人が利用できる特例として案内しています。
投資をしている人にとっては、「NISAだけではなく、こういう制度もある」ということを知っておくといいでしょう。ただし、対象となる金融商品や手続きがありますので、利用する金融機関で確認することが必要です。
会社を休んだときは「傷病手当金」もある
働いている人が精神的な不調などで長期間仕事を休むことになった場合、健康保険の「傷病手当金」が利用できる可能性があります。
傷病手当金は、業務外の病気やけがの療養のため仕事を休み、給与が十分に支払われない場合など、一定の条件を満たしたときに支給される制度です。支給期間は、支給開始日から通算して1年6か月です。
支給額は原則として、支給開始日前の一定期間の標準報酬月額をもとに計算され、1日あたりおおむねその平均額の3分の2です。
精神障害になってすぐ退職するのではなく、まず休職するという選択肢を考える場合、この制度は非常に重要です。ただし、健康保険の加入状況や休職の状況などによって条件が異なるので、自分が対象になるかは加入している健康保険に確認する必要があります。
医療費が高くなったら「高額療養費」もある
自立支援医療だけでなく、健康保険には「高額療養費制度」もあります。これは、1か月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた部分について支給を受けられる制度です。
精神疾患だから特別に使える制度というわけではありませんが、精神障害者がお金について考えるうえでも知っておきたい制度です。
精神科以外の病気やけがで大きな医療費がかかる可能性もあります。
「自立支援医療があるから医療費は大丈夫」と考えるのではなく、健康保険の高額療養費なども含めて、自分が利用できる制度を確認しておくと安心です。
それでも生活できないときは生活保護も選択肢になる
最後に、かなり重要なのが生活保護です。
「生活保護は最後の手段」というイメージを持っている人もいるかもしれません。しかし、病気などによって働くことが難しく、収入や資産だけでは最低限度の生活を維持できない場合には、生活保護という制度があります。
精神障害があるから必ず生活保護を受けられるということではありません。一方で、精神障害が原因で働くことが難しくなった人が、生活に困窮する可能性はあります。
「自分はまだ頑張れるから」と無理を続けて生活そのものが破綻してしまうより、利用できる制度について早めに相談しておくことは大切だと思います。
精神障害者のお金は「稼ぐ」だけで考えない
精神障害になってから、僕はお金について「どうやってもっと稼ぐか」だけではなく、「どうやって生活を守るか」という視点で考えるようになりました。
障害年金で収入を補う。
自立支援医療で医療費を抑える。
障害者雇用で無理のない働き方を探す。
障害者控除で税負担を軽くする。
傷病手当金で休職中の生活を支える。
高額療養費で医療費の負担を抑える。
必要であれば生活保護について相談する。
こうして考えてみると、精神障害者が利用できる「お金に関する制度」は意外とたくさんあります。もちろん、制度を利用したからといって、お金の不安が完全になくなるわけではありません。
僕自身も、精神障害になってから収入は以前より減りました。障害者雇用で働いていても、決して裕福な生活ができるわけではありません。それでも、制度を知っているかどうかで、生活の安心感はかなり変わると思います。
特に精神障害の場合、体調が悪くなったときに「働けない=収入がゼロ」という状態になることは避けたいところです。
そのためにも、普段から使える制度を調べておく。
役所や年金事務所、医療機関、相談支援機関などに相談しておく。
そして、必要なときには遠慮せずに制度を利用する。
これは精神障害者がお金と付き合っていくうえで、とても大切なことだと思います。
精神障害になったら、以前とまったく同じ人生を送れなくなることもあります。でも、だからといって人生が終わるわけではありません。
収入が減ったとしても、制度を利用しながら働くことはできます。
医療費を抑えながら治療を続けることもできます。
障害年金などで収入を補うこともできます。
僕は精神障害になってから、「お金をたくさん稼ぐこと」だけが人生を安定させる方法ではないと考えるようになりました。
稼ぐ、もらう、減らす、守る。
この4つを組み合わせて、自分の生活を立て直していく。精神障害になった後のお金について考えるときには、そんな発想も必要なのではないかと思います。
※制度の内容や金額、利用条件は変更されることがあります。また、自治体や所得、加入している社会保険などによって利用できる制度が異なる場合があります。実際に申請・利用する際は、最新の公的情報や自治体の窓口、年金事務所、加入している健康保険などで確認してください。



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